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  制作技法・手法と効果 red05_next.gif アンリ・ルソーの制作法と様式 素朴派の隠れた規則的様式


  

  

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制作技法・手法と効果 目次

 

 アウトサイダー(正規の美術教育を受けていない者)の画家として、また遠近法を無視?した技法やその作風から“素朴派”と呼ばれるルソー。巷ではその詩情性が高く評価されてきました。

 ところで、その“詩情性”はどこからくるのでしょうか? また、“詩情性”だけで、美術史に残るほど高い評価を得られるものでしょうか? 

 これほどまでに高い評価を得るに至ったという事実は、間違いなくルソーの作品の中に、それまでの絵画表現にはなかった革新性があったはずです。そこで、ルソーの制作法と様式を、今回も何人かの美術評論家の解説とともに見ていきます。

 

 ■ルソーの源泉:制作法のひとつ

 「さらに作品の多くは、現実の対象を模写したものではなく、雑誌、写真、絵本など既製の図像を借用、変形、合成した創作であり、(…中略…)近代的造形法の創始者として重要な存在である」 ※『パリ・オランジュリー美術館展 ジャン・ヴァルテル&ポール・ギョームコレクション』 監修:木島俊介 作品解説:永井隆則 発行:NTV 1998 p205〜206

 「彼の構図に現れる奇妙な動物や人物は、子供向けの野生動物の写真集のなかから写しとったものである」 「トラは挿絵に使われていたドラクロワの素描からとったものであり、それをルソーはパンダグラフという縮図器で拡大したのである」

 「ルソーは絵に遠近法を使うことはほとんどないし、また物体間の“正確な”空間の関係をつくりだすこともしていない。ルソーはデザイナーのように、比較的奥行きのない空間に形態の単純なパターンを描いて、絵を構成していった」

 以上、 『週刊グレート・アーティスト15 ルソー』 監修:中山公男 図版校閲:東海林玉樹 発行:同朋舎出版 1990

 ここからわかることといえば、いろいろなところから、モチーフになるものを持ちよっては結合して、ひとつの作品とした…つまり、今でいうところの“コラージュ”を描いた(作ったのではなく)画家ということになります。

 ルソーの代表的な作品は主に1890年代半ばから1900年代に制作されています。ということは、ピカソやブラックによるコラージュ的な要素を取り入れたパピエ・コレもまだ登場していませんし、もちろんフォト・モンタージュやコラージュが流行したロシア・アバンギャルドも、コラージュで一世を風靡した著名なシュルレアリスト、マックス・エルンストも登場していません。

 となれば、ルソーが考えついた制作法は、当時としてはいかに斬新な試みであったかが理解できます。絵画としてのコラージュなのですから…。突飛すぎるほどです。そして、ルソー作品でもうひとつ突飛なものといえば、遠近法を無視した構図。

 美術教育を受けていなかったために、その構図は苦肉の策とも、素朴ともいわれやすい所以ですが、その構図についても次のように語られたりもします。

 「数値に還元される客観的遠近法ではなく、ルソーの心理的ヒエラルキーに従った主観的遠近法にほかならない。

 幾つかの人工形態は、一見奥行きを作り出す大小関係に従って配置されながら、それぞれ、陰影や筆触の跡のない平塗りの面を合成して描かれているため、遠方へ秩序立って収束するのではなく展開図のように前方へと復帰する力を備え空間全体に捻れや軋みが生まれている」 ※『パリ・オランジュリー美術館展 ジャン・ヴァルテル&ポール・ギョームコレクション』 監修:木島俊介 作品解説:永井隆則 発行:NTV 1998 p205〜206

  好意的な解説といえますが、こうした好意的な解釈を可能にさせているのは、描かれる世界とそのモチーフが合致しているからです。そして、もうひとつ大切なことは…

「画面のあらゆるものは、細部まで克明に描かれ、すべてが同等の資格で画面に参加している」 『モデルニテ−−パリ・近代の誕生 オルセー美術館展』 編集:高橋明也、日本経済新聞社 作品解説:高橋明也 発行:日本経済新聞社 1996 p264

 こうした描写方法により、遠近法は破綻していたとしても、そこにある絵画世界の統一感が生み出されたわけです。それも偶然でしょうか? さらに、ルソーの作品の魅力となるものが他にもあります

 

■ルソーの様式

  「…いとも軽々と強烈で鮮やかな新しいイメージを持ち込んだことが驚愕に値しよう。そしてそれを支える革新的要素のひとつには、ルソー特有の鮮烈であると同時に繊細な色彩の使用と、平塗りの技法が挙げられるだろう。※『19世紀の夢と現実 オルセー美術館展1999』 編集:高橋明也 作品解説:高橋明也 発行:日本経済新聞社 1999 p72

 「ルソーのいちばんの長所は色彩感覚と画面全体に見られる美しいパターンにあった。彼はいつも、それぞれの絵に取り入れたさまざまな色を誇りにしており、アトリエを訪れた人は、彼が22番目の色をよく知っていることを得々と語るのを聞かされた」

 「ルソーの入念な、つまり“素朴な”形態のバランスは、平板なフォルムと、秩序をもたせて交互に配置された明暗の色彩によって強調されている」 以上、 『週刊グレート・アーティスト15 ルソー』 監修:中山公男 図版校閲:東海林玉樹 発行:同朋舎出版 1990

 

 ルソーは遠近法を使用しないかわりに、ひとつのパターンを作り出し、それを繰り返すこと、また構図の中でそのパターンを秩序もたせて配置したこと、明暗の対比もパターンとして取り込んだ……これらを統合した、ルソー独自の絵画法則・理論を構築して、それをもとに描いていたということになります。

 ルソーは、ただ単に感覚的に描いたのではなく、まさにルソー様式にのっとって描いていた。そのルソー様式の効果が以下に集約されるのでしょう。

 「ルソーの素朴さはむしろ、現実をファンタジーへと変貌させていく制作原理から生まれた意識的な装いであった」 ※『パリ・オランジュリー美術館展 ジャン・ヴァルテル&ポール・ギョームコレクション』 監修:木島俊介 作品解説:永井隆則 発行:NTV 1998 p205〜206

 

(文中の太字は筆者の私、トビー高橋の独自の判断によって行ったものです)